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地獄変--芥川龍之介

良秀と申しましたら、その頃絵筆をとりましては、

良秀の右に出るものは一人もあるまいと申された位、

高名な絵師でございます。

良秀が堀川の大殿様のために地獄変の屏風を描くところからこの小説は始ます。

その頃大殿様の御邸には、十五になる良秀の一人娘が、

小女房(こねうぼう)に上つて居りましたが、これは又生みの親には似もつかない、

愛嬌のある思ひやりの深い、年よりはませた、何かとよく気がつく、娘でありました。

良秀も娘を尋常ならずかわいがっておりましたが、

殿の小女房として働くが故に良秀が娘とともに過ごせることはなかったのです。

ある時、見事な稚児文殊(ちごもんじゆ)を描ましたから、大殿様も至極御満足で、

「褒美には望みの物を取らせるぞ。遠慮なく望め。」というお言葉に

良秀は「何卒私の娘をば御下げ下さいまするやうに。」と申し上げました。

れには大殿様も御機嫌を損じたと見えまして、やがて、

「それはならぬ。」と吐出(はきだ)すように言ったのでした。

大殿様の良秀を御覧になる眼は、その都度にだんだんと冷やかになつていきました。

やがて大殿様は良秀に地獄変の屏風を描くように言いつけます。

良秀は絵の制作過程において段々と狂人と化して行くのでした。

最終的に良秀は屏風が後少しの所で描けぬと殿に訴え、

牛舎にのった女が猛火の中でもだえ苦しむところが描けぬゆえ

車を私の目の前で焼いてほしい、と願い出たのでした。

大殿様は良秀のいう通り車を焼いて見せることにしました。

ところが中には良秀の娘が、鎖に繋がれていたのです。

実際に娘が焼かれる時、殿はその恐ろしさと絵師良秀の執念に圧倒され終始青ざめていた。

良秀は見事な地獄変の屏風を描き終えました。しかし次の夜に、

自分の部屋の梁(はり)へ縄をかけて、縊(くび)れ死んだのでございます。

一人娘を先立てたあの男は、

恐らく安閑として生きながらへるのに堪へなかつたのでございましょう。

屍骸は今でもあの男の家の跡に埋まつて居ります。

 

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