目次>◆五重塔------------幸田露伴

「五重塔」--幸田露伴

腕前は抜群だが世渡りが下手なため、一介の貧之大工に甘んじていろ男がいた。

その名を十兵衛といい大工仲間から「のっそり」と呼ばれる男である。

ある時、江戸谷中の感応寺（かんのうじ）では、「五重塔」を建てることになった。

寺では先の工事をみごとに完成させた武州の国川越の源太という名棟梁に、指名されていたが、

しかし、そこに十兵衛が現れ、「この堂塔はぜひ私の手で」と住職に泣きついた。

彼は日頃、源太の下で働く大工で、

源太の女房お吉や弟子たちは怒り、十兵衛の女房お浪もまた、

親方に対する恩知らずの行為であると反感ろかっていた。

棟梁源太も不快である。

しかし、十兵衛は気持ちを変えようとしい。

彼は一生に一度自分の腕をふるって、自己の存在をアピールし、後世に名を残したいと考えていた。

そんな彼の気持ちを感応寺の住職だけはよく理解してくれた。

源太と十兵衛を呼んで仕事の譲り合いを提案し、最終的には二人の話し合いに任せた。

源太は共同で建てることを提案するが、十兵衛はこれを受け入れず、

あくまでも自分一人で建てなけれぱ、願いは全うされないと言う。源太は途方に暮れ、

結局「五重塔」の工事に辞退を申し出、寺は十兵衛に任せる事となった。

源太は智恵を貸そうとするが、それも断られ怒は頂点に達する。

工事が始まると、十兵衛の意気込みはさすがに激しく、鬼気迫るものがある。

ある日、源太の弟子に襲われて片耳を失うが、それでも十兵衛は仕事を休まず、

その意気込みが現場を動かし、五重塔は立派に完成するのであった。

落成式前夜、江戸は暴風に襲われたが、十兵衛は自信をもって動かない。

が、最後は「塔の倒れるときが自分の死ぬとき」と心に決めて、塔に上る。

塔の下には心配して見守る棟梁源太の姿もあった。

一夜明けると江戸中は大きな被害を受けていたが、十兵衛の建てた五重塔は無傷でそびえ建っていた。

住職は落成式で「江都の住人十兵衛之を造り、川越源太之を成す」と記したのであった。

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